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平成
18年(行)第号 損害賠償請求上告受理事件

申立人 渋谷登美子外3名 相手方 嵐山町

 

平成18330

 

 

上告受理申立理由書

 

最高裁判所 御中

 

上告受理申立人訴訟代理人  ××× 

第1、上告受理申立の趣旨

原判決には、判断に際し、下記のような事実誤認及び法令の適用と解釈の誤りがある。よって、本件上告は受理決定がなされるべきである。

 

1、            本件任意合併協議会の事務を嵐山町事務と事実判断する誤り

(即ち任意協議会と町を同一の自治体とする判断)

2、上告人らの主張を任意合併協議会設置の違法にあるとする歪曲

3、地方自治法(以下、法とする)第215項に係る事務概念と政策選択の混同

4、法210条、211条、216条、232条の法令適用と解釈の間違い

5、地方公務員法35条の法令の適用と解釈の誤り

6、法第1条の趣旨の無視

 

以下、詳述する。

第2、上告受理申立の理由

一、事実判断における誤り

1、本件任意合併協議会の事務即ち嵐山町の事務(本件任意協議会と嵐山町を同一の自治体)と判断する誤り

 上告人らの主張の中心は、本件任意合併協議会の団体としての独立性である。原判決はこの点に関しては上告人らの主張を歪曲なく受け止めている。しかし、任意合併協議会事務を嵐山町の事務と判示する点は誤りである。嵐山町の通常の事務に関する調査・審議は執行の付属機関によって行われる。それに対し、嵐山町を廃止し(市町村の数を減少し)、他の市町村と共に別個の自治体を形成する事務は、調査・審議も他の市町村との共同の関係においてのみしか成立しない。即ち、内容的には、嵐山町の事務とは異質な事務であり、嵐山町とは別個独立の事務としてしか行うことはできない。嵐山町においても(証拠提出のWEB上の各市町村と同じく)、実際の運用の実態は、町の執行付属機関の事務として行われていないのである。それにもかかわらず、原判決は法2条15項や合併特例法などを根拠に町の事務と判示する。

  法律上自治体の事務とされることと、運用上それぞれの自治体のみで行うか、他の主体を構成(一部事務組合や広域連合、協議会など)して行うかは、別の事柄であり、実務はその認識に基いて執行されているが、原判決はこの事実への認識が欠如している。

 

2、上告人らの主張を本件任意協議会設置の自治法違反にありと判断する誤り

  原判決は、上告人らが任意協議会設置の自治法違反ないし合併特例法違反を主張しているものとして、協議会に関して定めた自治法や合併特例法の趣旨を没却する特段の事情が認められない限り、任意協議会(事実上の協議会)設置も適法と判示する。しかし、上告人らは、事実上の協議会の「病理」的側面は指摘したが、その自治法違反は主張していない。

  事実上の協議会設置の「病理」的側面とは、執行による裁量が妥当な範囲を逸脱する場合の多いことを指す。上告人らは任意合併協議会参加後の運用に関し、恣意的に権限が行使され、その結果、財務規程、地方公務員法、職務専念義務免除条例等への違反が生じていることを指摘したのである。(上告人らは設置の裁量逸脱は、別に憲法規定との関係で陳述する。)

  従って、原判決は、上告人らの主張は任意協議会設置の違法性にあるのではなく、その運用に関する事務執行が権限濫用の指摘にある事実を正しく理解し、その指摘の適否について判断すべきであったのである。しかるにこの事実について、前者(設置の違法性)と後者(事務執行の権限濫用)を転倒して歪曲し、上告人らが主張しない事柄について判示し、主張した事柄(予算議決なく執行したこと)については判断しないという重大な事実誤認を犯している。

 

二、法律判断の誤り

1、任意合併協議会の本質理解の誤り

 任意合併協議会は、単独事務についての執行の付属機関ではなく、規約に基き構成された共通事務の実施主体としての独立性がある。原判決は、本件任意合併協議会の運用の実態及び多くの事例の実態から帰納的に判断されるべきところを町の単独事務であるとの判断を先入的に固執し、それに基いて演繹的に予算や給与の計上、執行も判断している。これは形式論的推論で、法律の解釈に基く事実の適正判断としては論理転倒している。

 

2、法215項に係る事務概念と政策の混同による法令解釈の誤り 

(1)行政活動の価値概念の位相についての認識の欠如

地方公共団体には、事務処理に関して、@住民の福祉の増進性と効率性(法214項)、A組織及び運営の合理化と規模の適正化(法215項)、B法令等の遵守(法216項・17項)の3つの責務がある。

  原判決は、法215項において他の地方公共団体に協力を求めて規模の適正化を図ることが定められているので、市町村合併に係る本件任意合併協議会は、直ちに嵐山町の事務にあたるとの判断をしている。

  法215項の「規模の適正化」は行政活動の規模の適正化を意味し、合併、事務組合の設立、市町村広域行政圏等の設立を示している。

  規模の適正化を進めるための手法として市町村合併も考えられるのは、原判決の判断のとおりである。しかし、広域行政区域による行政活動と市町村合併は、位相が異なる価値概念である。広域行政区域による行政活動は、事務概念の一つであるが、市町村合併は統治機構を変更する政策である。従って、統治機構の変更を行う政策を地方公共団体の一般事務として位置づけるには、適法手続きによる住民合意(議決)が必要である。

原判決は、「近年、交通・情報手段の発達、日常社会生活圏の拡大や地域間の連携・協力の促進等による市町村の広域化が要請され、その要請を総合的に解決する観点から、市町村合併によって単一の地方公団体が処理するという手法も広域行政の一環としてとらえられるものでありこのような基礎的地方公共団体たる市町村の事務権限や合併に関する法制度に鑑みれば、合併に関する調査、研究、計画策定等を行うことは、市町村の事務と考えられる。」と論理が飛躍している。 

統治権の変更である合併枠を特定した8市町村の合併に係る事務を嵐山町の事務として位置づけるには、適法手続きが必要であるが、原判決には、統治権の変更政策を進めるにあたって、法に基く住民合意手続き(議決)を不必要とする法的根拠の判示もない。

原判決は、統治の再編成(市町村の区域・住民・自治権の変更)を、地方公共団体の広域行政区域の行政活動の一般事務として事務処理できるとする行政活動の位相に混乱がある。

 

 

(2)市町村合併と広域行政の概念の相違

  市町村合併は、統治権の変更を目的とするものであり、広域行政は、統治権を変更せず、能率的な行政活動を適正規模で行うものである。

地方公共団体は、区域、住民、自治権がその構成要素である。広域行政は地方公共団体の構成要素を変更しないが、市町村合併は地方公共団体の構成要素を変更する。即ち、市町村合併は、法5条の区域、法10条の住民、法1条の2を変更するものであるが、広域行政は、区域、住民、自治権の変更がない。

市町村合併は、自治体の区域の統合によって区域を伸張し、区域の統合によって住民を統合し、自治組織を統合するなど、広域行政区域に分散していた権力の集中を意味する。広域行政は、行政活動の自治体の区域を越える広域的処理を意味する。

  従って、合併枠を定め新市策定を目的とする本件任意合併協議会の事務を、嵐山町の事務として位置づけるには、統治権の変更という重要な政策変更に着手するための所定の手続きが必要である。

ところが、原判決はあいまいなイメージで市町村合併を広域行政の一環とするにとどまり、市町村合併を広域行政の一環とする法解釈の判示もなく、又、統治権変更政策に着手するための所定の手続きの逸脱を長の裁量の範囲とする法解釈、法論理も判示されていない。

上告人らは、実務上、総務省、埼玉県が市町村合併と広域行政を異なるものとして位置づけていることも弁論の中で論じている。原判決にはその点についての判断もない。又、WEB上に掲載されているすべての事実上の協議会はその事務を、構成自治体の事務として位置づけていないこと、即ち、構成自治体とは異なる財務会計で経営していることを弁論したが、原判決は、事実上の協議会はすべて法人格がないことが認められるという無意味な判示をし、判断していない。

 

(3)法215項の解釈の混同による法214項、16項の法令解釈の誤り

@ 原判決には、法214項の目的、最少経費最大効果による住民福祉増進について、法令解釈の誤りがある。最少の経費最大効果による住民の福祉増進は、事前評価で予測して初めて事後住民福祉増進に寄与したか否かの評価ができる。本件任意合併協議会設置に関しては、事前評価せず、平成173月までの合併特例法の有利な起債と職員の人事の特例に間に合わせるために、突然設置し、嵐山町職員2名を含め、8市町村で15名の職員を約3ヶ月にわたって、自治体の事務とは異なる事務に従事させたが、構成自治体の議会に法定協議会設置議案を提案しても否決されるという予測のもと、合併特例法の期限に間に合わせるために新たな枠組みでの合併を推進することを目的に解散した。「嵐山町長は、職員2名を嵐山町事務ではない団体事務である本件任意合併協議会事務に携わらせ、職員給与を支出した損害がある。」という上告人らの主張に対し、原判決は、「市町村合併を進めるか否かの検討に当たり、合併特例法における財政上の支援が得られるか否かを考慮することは、地方公共団体として当然のことであり、嵐山町議会で法定協議会設置の議決を得ることができないとの判断の元で解散し、合併特例法の期限に合わせ、財政上の支援を得るための方法の模索は、最少の経費で最大の効果を挙げるべき努力と評価することもできる。」と判示している。 

前述したように、自治体事務における法214項の評価は、事前評価と事後評価によって判断する。本件任意合併協議会経費を科目に組みこんだ予算の説明書に基づく予算議決はなく、地方公共団体の2元代表制のもう一方の議会による事前評価は行なわれていない。本件任意合併協議会は、公共の福祉増進に寄与したか否かの判断ができず、法214項に反する。 原判決は法令の解釈を誤っている。

A法216項の解釈について

地方公共団体の事務処理は、住民合意手続き(議決)を経ていなければならない。本件任意合併協議会の経費支弁は科目設定されておらず、予算に説明されていない(合併事務を認知できない)まま議決した。つまり長に執行権限が附与されていなかったのであるからこの実施に関しては権限の濫用であり、議会の予算議決権にたいする侵害にさえあたる。

上告人らが調べた事実上の協議会経費は、協議会構成市町村の負担金として科目設定された説明と共に予算議決され、適正手続きを経ている(甲48から107、及び甲116から119)。そのうち事実上の協議会負担金を含む予算議決が否決された例として、蕨市を例示した(84から91)。上告人らは、証拠提出の事実上の協議会は財務会計上の実務として、事実上の協議会予算の経費負担を組み込んだ予算議決のもと、事実上の協議会参加の事務執行が適法であるに対し、本件任意合併協議会経費は、予算に科目設定なく、予算外事務執行で長の議会の議決権侵害を主張している。それに対し、原判決は無意味な判断「証拠提出の事実上の協議会も法人格がないことが認められる」を判示している。

211条の2による説明書に本件任意合併協議会の事務執行の経費が記載されていない予算議決より、嵐山町が本件任意合併協議会に参加することは長の予算外執行であり、法216項に反している。原判決は、法210条、211条、216条、232条等の財務会計実務に無知であることより、法2条16項に反することの判断がない。

財務会計上の実務について、次に記す。

 

3、法210条、211条、216条、232条の法令解釈の間違い

(1)、原判決の短絡な判示

原判決は、「合併に関する調査、研究等の事務が市町村の事務として考えられるので、本件任意合併協議会の事務局の職務に従事したり、本件任意合併協議会や事務連絡会議に出席した嵐山町の職員である山岸堅護ほか4名は、嵐山町の企画課に勤務しており、その給料は、本件任意合併協議会にかかる職務に従事した分も含め、企画課職員に対する給料として、平成14、15年度嵐山町予算の歳出の款「総務費」、項「総務管理費」として適法に計上され、目「企画費」、節「給料」、「職員手当」「共済費」として適法に計上された予算科目から支出されたことを認めることができ、上記款項目節の予算計上、支出の方法に違法があるとは認めがたい」と判示している。

しかし、本件任意合併協議会と嵐山町とは別団体であるため、本件任意合併協議会の職務に従事した職員給与等を平成14、15年度嵐山町予算の歳出の款「総務費」、項「総務管理費」、目「企画費」、節「給料」、「職員手当」「共済費」の区分より適法に支出するには、法216条に従った予算措置による所定の財務手続きと議決が必要である。

原判決は、嵐山町の事務と本件任意合併協議会の事務を同一のものと認識しているため、法216条に反することの判断とその認識が欠如している。

 

(2)法210条、211条、216条、232条に定める予算の本質

210条について、青山学院教授中村芳昭は以下を記している。

 

本条は「一切の」収入・支出を「すべて」歳入・歳出予算に計上することを求め、これによって予算の全体を一元的に把握できるようにして議会ないしは住民の財政上の監督に資することを目的としているので、この原則の例外が認められるのには、よほどの強い事由が必要とされる。換言すると、本条は、232条の3,232条の4とともに予算に計上しない支出すなわち予算外支出を禁止していると解される。(別冊法学セミナーNO168)。

 

232条について、広島大学教授田村和之は以下を記している。

 

本条1項によれば、地方公共団体が支弁する経費は、@当該地方公共団体の事務、A当該地方公共団体の事務ではないが、法律又はこれに基く政令により当該地方公共団体の負担に属する経費である。(出典同上)

換言すると、地方自治法第9章の財務に関る定めは、法210条、211条、232条より、予算にはすべての自治体の経費が網羅され、住民に明確に説明されていなければならない。その上で予算の事前議決が求められている。

本件任意合併協議会経費については、法211条2項による説明書に嵐山町の事務としても、嵐山町の事務ではないが嵐山町が負担する経費としても、科目に組み込まれず予算議決している。長は予算に計上していない本件任意合併協議会事務を執行しており、予算外執行であり、著しい裁量権の逸脱がある。

WEB上の事実上の協議会構成市町村は、構成市町村の予算に協議会を当該市町村とは別団体として、負担金として科目設定し、議決があることを主張したが、原判決は、嵐山町の事務と本件任意合併協議会の事務を同一のものとの誤認に固執し、法令解釈に誤った判断がある。

 

(3)原判決の予算区分主義に関する判断の欠如

原判決は、予算区分主義に関し判断が欠如している。法211条、216条、232条の3より、予算は単なる見積書ではなく、長に対してその事務執行命令書であり、予算に含まれない事業を執行することは許されない。科目設定のない経費に他の科目からの予算流用はできない。

町単独事務のための計上を他の独立団体のための支出に用いることは予算区分主義に反する違法支出である。予算は長に対する支出命令書であるため、本件任意合併協議会の事務に従事した職員の給与を、嵐山町の事務に従事した対価として支出することは、長の権限を逸脱している。

原判決は、本件任意合併協議会予算が、適正に区分計上されているか否かに関し、一切言及がなく、判断の誤り以前の誤りがある。

 

(4)予算の実務

210条、法216条、232条より予算にはすべての経費を適正な区分に計上しなくてはならない。そのため、実務上、その年度中、経費支出が未明の場合、予算上は適正に科目設定のみ行い、経費1000円を計上し、事務事業の予定を明らかにして議決を求めるのが通常である。科目設定がある場合、各項間で予算の流用を行うことができる。

科目設定のみを行う例として、嵐山町平成15年度予算書(甲39)のP34 2款 総務費 1項 総務管理費 1目 22節 補償、補填及び賠償金1000円、 P36、2款 総務費 1項 総務管理費 4目 財産管理費 ふるさとづくり基金管理事業1000円、などを示すが、予算の一般的な実務処理である。科目が必要ない場合、その科目を廃止する。

上告人らは、他の事実上の協議会では、規約に、経費支弁、職員の身分の位置づけが定められていること、予算に経費が負担金として組み込まれていることを弁論し、西東京市を構成している田無市・保谷市予算書・決算書(甲94102)、川口・蕨・戸田合併推進協議会構成市の蕨市予算書・決算書(甲84868891)、さいたま市を構成している浦和市予算書(甲119)を証拠として提出した。

規約に協議会の経費支弁、職員の身分の位置づけが定められているか否かにかかわらず、構成団体は法210条他の財務規程に従い、予算に事実上の協議会の分担金を組みこまなければならない。

本件任意合併協議会の規約に経費について、各構成団体は平成14年度、15年度予算の歳出、2款 総務費 1項 総務管理費 目 企画費 19節 負担金補助及び交付金として本件任意合併協議会負担金を科目設定した予算議決ある場合、予算額が1000円であろうとも、法2157号、216条、2202項より、本件任意合併協議会経費を 2款 総務費 1項総務管理費の各目、各節より、予算の流用が可能となる。

従って、本件任意合併協議会の経費支弁、職員の身分の位置づけを規約に定め、予算に科目設定されている場合、本件任意合併協議会の職務に従事した山岸堅護他4名の給与等についても、平成14、15年度嵐山町予算の歳出の款「総務費」、項「総務管理費」、目「企画費」、節「給料」、「職員手当」「共済費」から流用できる。

同様に、東松山市が本件任意合併協議会経費を予算に科目設定していたなら、東松山市が本件任意合併協議会経費を東松山市庫より負担しても、予算の流用による事務処理も適法である。上告人らが、証拠として提出した他のWEB上のすべての事実上の協議会は、規約に経費支弁を定め、予算に分担金を計上し、上記の地方自治体の財務会計上の実務手続きを経ている。

 しかし、原判決は、地方自治体の財務会計行為の実務について無知であり、法210条、211条、216条、232条等の適用・解釈に誤りがあり、法216条に反した財務会計行為を適法と誤った判断をしている。

 

4、地方公務員法35条の法令解釈の誤り

(1)原判決の無意味な判示

原判決は、本件任意合併協議会は、上告人らが証拠として提示した事実上の協議会と同様に法人格がなく、事実上の協議会の事務局に従事する職員の任命権者は 各構成自治体であり、協議会における嵐山町職員の行う事務は、広域行政の一つである合併に関する調査・研究等であり、嵐山町の職務に位置づけられるものであるので、嵐山町の事務であり、職務命令によって本件任意合併協議会の事務に従事させたとしても、職務専念義務に反する措置であったとはいい難いため、地方公務員法35条に反するものではないという趣旨を判示している。

協議会は、法定協議会、事実上の協議会とも、法人格はなく職員を派遣することはできないことは、上告人らが弁論しているとおりである。

原判決は、任意合併協議会には職員の任命権がないことを指摘しているが、上告人らはそれゆえに自治体から職員派遣しなければならず、法令に従い、職務専念義務免除条例に基づき分担金措置を講じなければならないと主張しているのである。

それに対し、原判決は、任意合併協議会に職員の任命権がないことより、派遣元自治体はこれらの職員派遣にかかる法令を無視してよいとの判断を示している。これは暴論以外のなにものでもない。

自治体の職員の任命権者は、事実上の協議会であろうとも、法定協議会であろうとも、又他の地方公共団体への派遣であろうとも、自治体の事務であろうとも、職員の所属する自治体が任命権者である。本件任意合併協議会の職員の任命権者が所属する自治体であることは、本件任意合併協議会と嵐山町とが異なる団体であることを覆す法根拠にもならず、本件任意合併協議会の職務に従事した職員への給与支出が、地方公務員法35条に反しない法根拠にもならない。

 

(2)構成団体とは異なる団体である協議会

協議会は、協議会構成団体とは異なる組織であるため、事務管理も異なる。法定協議会においては、252条の4、1項、2項に基いて、名称、構成団体、事務管理、経費の支弁、職員の身分の位置づけ等を規約に定めることを規定している。上告らの調査した事実上の協議会は、法定協議会についての定めを準用し、その参加について負担金として科目に組み込んだ予算議決がある。

本件任意合併協議会は、名称は、「嵐山町」ではなく、「比企地域任意合併協議会」であり、その組織は、構成団体8市町村の協議会委員と事務局からなる。協議会委員は、構成8市町村の長、議長、助役、担当職員であり、協議会会長は、東松山市長である。協議会の事務局事務には、8市町村の職員が従事し、嵐山町職員山岸堅護、伊藤恵一郎の上司は、嵐山町職員ではなく、東松山市総務部参事の鈴木智事務局長である。本件任意合併協議会は、「嵐山町」とは異なる団体である。

仮に、原判決の判断のように本件任意合併協議会の事務が嵐山町事務内容そのものであるというべき事務であるとしても、山岸堅護らは、「嵐山町」とは異なる団体である「比企地域任意合併協議会」の事務に従事していたことに相違ない。

 

(3)構成団体とは異なる組織の事務に従事する職員の取り扱い

@協議会の事務に従事する職員の取り扱い

所属する自治体とは異なる団体の事務に従事する職員に給与を支給するには、法25217項に基く職員派遣、公益法人等への一般職員の地方公務員派遣等に関する法律に基く派遣、市町村の職務に専念する義務の特例に関する条例の適応の3通りがある。

協議会は、地方公共団体ではなく、公益法人でもないため、その事務に従事する職員に給与を支出するには、市町村の職務専念義務免除条例の適用が必要である。

A給与条例主義及び職務専念義務免除条例の適応違反への判断欠如

自治体の職員の給与は条例にもとづくことなく支給することはできず、町の事務に従事しなかったものには職専免条例にもとづくことなく給与を直接支給することはできない。原判決は、給与支給についての条例についての判断をしていない。

すべての法定協議会及び上告人らの調査した事実上の協議会は、関係地方公共団体とは異なる別団体として、規約に名称を定め、経費支弁を定め、職員の身分の取り扱いを定め、職員給与の負担元を定めている。

法定協議会、事実上の協議会共に、協議会規約に職員の身分の取扱について定めることで、職務専念義務免除条例に係り、地方公務員法35条に適合が図られる。

さらに規約に経費支弁の定めがあり各構成団体が任意合併協議会負担金を予算に適正に科目設定していれば、その事務に従事する職員の給与については、予算策定の実務、法216条より予算の議決は款項までであるため、法2157号より、2款総務費 1項 総務管理費から流用することができるので、特に予算科目に計上しなくとも適法に経費支弁できる。

上告人らは、職員給与を、2款 総務費 1項 総務管理費 6目 企画費 19節 負担金補助及び交付金で支出すべきであると主張する理由もそこにある。事実、ほとんどの任意合併協議会、すべての法定合併協議会の構成団体は、こうした方法で協議会事務に従事する職員に職専免を適用している。

   原判決は、被上告人の適正とは解し難い主張を認容し、本件任意合併協議会の事務を嵐山町事務であるとし、地方公務員法35条に反していないと判示する。更に上告人らの引用する事例に対してはそれらにおいても協議会事務局職員の任命権者や費用分担者は構成自治体であり、そのことは協議会の事務即構成自治体の事務であることを示すものであると結論づけ、それらが適法に地方公務員法、職専免条例、自治法財務規程に基づいて実施されているかについては問う必要がないとの判断を示す。上告人らは任命権者も費用分担者も構成自治体であるが故に「法律による行政」の原則に基づくべきことを主張しているのであるが、右の判示はこの原則の遵守不要を説示するに等しく暴論と評されてもやむを得ない。

 

5、原判決の地方自治法第1条の無視

本件任意合併協議会は、合併の可能性について抽象的に調査研究するのではなく、特定合併枠を前提として具体的に調整統合を図る目的で設置されている。本件任意合併協議会は、法定合併協議会設置を予定して実質的合併協議に事前着手していたことは明白である。本件任意合併協議会各関係市町村長は、合併特例法に定める起債や、職員身分の保障等の特例の働く期限に合致させることを目的に、平成1533日に設置し、必要ないし適正な法手続きをとることなく、本件任意合併協議会に職員を派遣し運営したのである。規約に経費負担も事務局職員の身分の取り扱いが明示されておらず、それらを各構成団体の予算に組むこともしていない。本件任意合併協議会参加について、2元代表制のもう一方の議会の関与を避けている。それらの事実が地方自治法の目的、民主的にして能率的な行政の確保を図ることを損ない、いわゆる病理的な事例にあたることは明らかである。自治法1条は民主的、能率的な行政確保と自治体の健全発達の保障を目的として掲げるが、原判決は、事実上の協議会について、法に定める適正手続きの遵守による民主性の確保を忘れ、右の目的を逸している。

 

第3、まとめ

本訴は、被上告人他関係町村長が合併特例法の財政と身分の支援措置の期限に間に合わせるために設置した法に定めのない「事実上の協議会」の経費の支弁を予算議決原則に照らして行っているか、地方自治法の目的、効率的でなおかつ民主的に行政の確保に適っているか、健全な地方公共団体の発達を保障しているかの判断を司法に求めるものである。 

原判決は、法令解釈上の重要な事項について誤った判断の事案であるから、上告受理決定がなされるべきである。

重大な誤りは、市町村合併と広域行政の概念の明確な区別、地方公共団体の事務と他団体の事務を区分した説明書のある予算議決が必要なことに関してである。

210条・211条、216条、232条、232条の3、同4の解釈問題はとりわけ重要である。法210条、211条、216条、232条、同3、同4の解釈いかんによって、市町村合併という統治権に係る重要な政策を、地方自治の二元代表制の合意なく進めることの是非の判断に結びつく。

最高裁判所によって、地方公務員法35条、法210条、211条、法216条に関し、適正な解釈が下され、地方自治の目的、民主性と能率性の確保を図り得るような判断が判示されることが必要である。